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千葉地方裁判所 昭和59年(ワ)1051号 判決

原告

松野奈月

右訴訟代理人弁護士

安田昌資

中杉喜代司

被告

市川市

右代表者市長

高橋國雄

右訴訟代理人弁護士

永山栞

被告

伊藤善光

被告

伊藤利司

被告

伊藤のぶ

被告

矢島久德

被告

矢島久雄

被告

矢島榮子

被告

加藤智久

被告

加藤正義

被告

加藤まつ子

右九名訴訟代理人弁護士

高橋高子

主文

一  被告らは原告に対し、各自金六七二万八一七二円及び内金六一二万八一七二円に対する昭和五七年九月二九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

但し、被告市川市において金二〇〇万円の担保を供したときは、同被告に対する右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金一二五七万一〇五〇円及び内金一一五七万一〇五〇円に対する昭和五七年九月二九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告全員、但し、3項は被告市川市のみ)

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 原告は昭和四二年九月二一日生まれ、被告伊藤善光(以下「被告善光」という)は同年六月二八日生まれ、同矢島久德(以下「被告久德」という)は同月一七日生まれ、同加藤智久(以下「被告智久」という、なお以上の被告三名を一括して以下、「被告善光ら」ということがある)は昭和四三年二月二七日生まれであり、訴外石田二郎(以下「二郎」という)とともに、昭和五七年九月二九日当時、いずれも市川市立第八中学校(以下「八中」という)の三年生であった。

(二) 昭和五七年九月二九日午後一時三〇分過ぎ、八中三階の第一音楽教室横ベランダ(以下「本件ベランダ」という)において、二郎及び被告善光らの四名が、音楽教室に放置してあった机から脱落した鉄パイプ(以下「本件鉄パイプ」という)を持ち出し、これをこもごもバット代わりに使用してピンポン球を打ち、それを補球する等の野球類似の遊び(以下「本件野球ゲーム」という)をしていたところ、二郎の振った本件鉄パイプが同人の手元を離れ、開放されていた本件ベランダ入口の敷居の上でしゃがみこんでいた原告の口唇部に当たり、これにより原告は骨破損及び歯牙破損の傷害を負った。

(三) 原告は、前記傷害により、昭和五七年一〇月五日から昭和五九年一月一〇日までの間東京都港区内所在のホシ歯科に通院して治療を受けた。その結果、原告は上顎四歯及び下顎四歯の計八歯を喪失する後遺障害を負った。

2  責任

(一) 被告善光らの責任

本件ベランダは、八中において生徒が出ることを禁止されていた場所であり、また本件野球ゲームを行うには余りにも狭い場所であって、しかも当時は昼休み時間中で、打者の後方に訴外早川有里子ら二名の女生徒が腰掛けており、廊下には原告や下級生の女生徒らがいた上、本件鉄パイプは野球バットよりも細く、かつ、グリップ付近に滑り止めの膨らみがなく、その材質からみても滑りやすく、それをバット代わりに振り回せば、容易に手から滑り抜ける危険性が極めて高かったから、被告善光らは、これを手から滑らせて飛ばすこと等によって生じる事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、本件ベランダに出て本件野球ゲームを行った結果、前記のとおり原告に傷害を負わせた。

二郎及び被告善光らの四名は、交替で打者となって鉄パイプを振り回すことを了解したうえで本件野球ゲームを行ったものであるから、二郎とともに被告善光らも共同不法行為者として原告に対する責任を負うべきものである。

したがって、被告善光ら三名は原告に対し、民法七〇九条に基づき、後記記載の損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告伊藤利司、同伊藤のぶ、同矢島久雄、同矢島榮子、同加藤正義、同加藤まつ子(以下以上の被告らを一括して「被告利司ら」ということがある)の責任

(1) 被告伊藤利司、同伊藤のぶは被告善光の父母、被告矢島久雄、同矢島榮子は被告久德の父母、被告加藤正義、同加藤まつ子は被告智久の父母であり、いずれも本件事故当時その親権者であった。

(2) 被告善光らは本件事故当時中学三年生で、体力の著しい伸長に比して事理の判断力が伴わず、ややもすれば危険な行為を行い易い年頃であったから、被告利司らとしては、被告善光らの日常の行動に充分注意を払い、殊に同じ年頃の生徒達が集まっている学校においては他の生徒に危険を及ぼすおそれのある行為を行わないよう指導監督すべき義務があったにもかかわらず、これを怠って被告善光らを放置したため、本件事故が発生するに至った。

したがって、被告利司らには被告善光らに対する監督上の義務違背があり、これと本件事故発生との間には相当因果関係があるから、被告利司らは原告に対し民法七〇九条に基づき、後記記載の損害について賠償すべき責任がある。

(3) 仮に、被告善光らに責任能力がなかったとすれば、被告利司らは原告に対し、同法七一四条一項に基づき、被告善光らの行為につき責任無能力者の監督者として、原告が蒙った損害について賠償すべき責任がある。

(三) 被告市川市の責任

(1) 被告市川市は八中の設置者であるから、学校生活における八中の生徒の安全を保護すべき義務を負う。市川市の公務員である八中の校長及び教員らは、破損した机の鉄パイプ等の備品を取り片付けておくことは勿論のこと、昼休み時間中の本件ベランダの使用についても、その場所の広さ、周辺施設の状況、周辺施設への生徒の出入り等を考慮のうえ、本件ベランダの使用自体の許否、禁止行為等を決定し、その旨を全生徒に周知徹底させるとともに、本件ベランダへの出入り口に施錠をし、あるいは校内巡視するなど適宜な措置をとって、多くの生徒の出入りする教室や廊下に面した狭い本件ベランダで、生徒が本件野球ゲームのように鉄パイプを振り回すなどの危険な遊びを行わないように配慮し、もって、生徒の安全を保護すべき注意義務がある。

しかるに、八中の校長及び教員らはこれを怠り、破損した机の鉄パイプを取り片付けず、二郎及び被告善光ら四名が右鉄パイプを持ち出し、本件ベランダで本件野球ゲームを行うのを放置し、本件事故を発生せしめた。

したがって、被告市川市は原告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、後記記載の損害について賠償すべき責任がある。

(2) また、被告市川市は八中の設置者として営造物の施設及び設備を管理する責任を負うところ、本件ベランダの入口の鍵をかけることなく、また、同所において生徒が危険な遊びをすることを放置し、かつ、破損した机の本件鉄パイプが散乱しているのを取り片付けなかったことなど営造物の管理に瑕疵があったことは明らかであるから、原告に対し、国家賠償法二条に基づき、後記記載の損害について賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 治療費 一三六万五〇〇〇円

原告はホシ歯科に対し治療費として一七六万九〇〇〇円を支払ったが、そのうち、四〇万四〇〇〇円については被告らから支払い受けたから、残金は一三六万五〇〇〇円である。

(二) 通院交通費

三万九二〇〇円

原告は、総武線本八幡駅から山の手線新橋駅まで電車を利用してホシ歯科に二八回通院したが、顔面に受傷した中学三年の女生徒が衆人環視の中を一人で電車に乗ることは耐え難い苦痛を伴うことから、二八回の通院のうち特に傷のひどかった前半の七回だけは母親の付き添いでグリーン車を使用した。右区間の運賃は、一人往復四八〇円であるが、グリーン車を利用すると一人往復二〇八〇円であった。よってその間の通院交通費は合計三万九二〇〇円である。

(三) 逸失利益

六一六万六八五〇円

原告は本件事故により上歯四歯、下歯四歯の計八歯を完全に失い、その歯科補綴を余儀無くされ、現在においても痛みがあり、硬い食物を食べることができないなど生活上多大な支障がある。これは自動車損害賠償保障法施行令所定の後遺障害等級表第一二級に該当する後遺障害であるから、少なくとも労働能力の一四パーセントを喪失した。原告は現在東京工学院芸術専門学校に在学中で、卒業すれば短大卒の資格が得られる予定である。昭和六〇年賃金センサスによれば、高専・短大卒女子の全年齢平均年収額は二五七万二二〇〇円であり(第一巻第一表産業計)、原告は二〇歳から満六七歳まで就労可能であるから、その間の年五分の割合による中間利息をライプニッツ方式によって控除すると、原告の逸失利益は次のとおり少なくとも六一六万六八五〇円となる。

257万2200円×(18.077−0.952)×0.14=616万6850円

(四) 慰謝料 四〇〇万円

原告は、本件事故により一五箇月余りにわたって通院治療をしたうえ、前記のような後遺障害を負った。一五歳という最も多感な年頃の原告にとって、顔面に前記傷害を受け、長期の治療を余儀無くされただけでも多大な精神的苦痛であるうえ、これから青春期、結婚適齢期を迎える女性として八歯も義歯を使用していかなければならない精神的苦痛は計り知れないものがある。更に、原告は、高校受験間近の大切な時期に前記傷害を受けた結果、学力が急激に低下してしまい、高校の受験先を変更せざるをえなくなった。後遺障害に対する慰謝料としては二四〇万円、一五箇月の通院に対する慰謝料としては一四三万円が相当であり、以上を参考に勘案すると、本件事故により被った精神的苦痛に対する慰謝料は、少なくとも四〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 一〇〇万円

原告は被告らに対し、何度も右損害を請求してきたが、被告らが損害を賠償しようとしないので、やむなく原告訴訟代理人らに本訴の提起及び追行を委任し、その費用、報酬等として一〇〇万円の支払いを約束した。

4  よって、原告は被告善光らに対しては民法七〇九条に基づき、被告利司らに対しては同法七〇九条又は同法七一四条一項に基づき、被告市川市に対しては国家賠償法一条又は同法二条に基づき、前記損害金合計額金一二五七万一〇五〇円及びこれより弁護士費用金一〇〇万円を控除した金一一五七万円一〇五〇円に対する本件事故の発生日である昭和五七年九月二九日から支払い済みまで民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告善光ら及び被告利司ら

(一) 請求原因1(一)の事実は認める。

(二) 請求原因1(二)のうち、原告は本件ベランダの入口の敷居の上でしゃがみこんだところ受傷したことは否認し、受傷の程度、内容は知らない。その余の事実は認める。

(三) 請求原因1(三)の事実は知らない。

(四) 請求原因2(一)のうち、本件ベランダに二郎及び被告善光ら四名以外の生徒がいたことは認め、その余は争う。

本件鉄パイプは、二郎が第二音楽教室の後ろ側に置いてあったのを見つけて持ってきたものであり、原告の受傷は二郎が打者のときに手が滑って二郎の手から本件鉄パイプが離れたことによるものである。したがって、本件加害行為は専ら二郎がなしたものである。

共同不法行為が成立するためには、各人の行為がそれぞれ独立して不法行為の要件を備えていることが必要である。しかし、原告の受傷は二郎の行為によるものであり、被告善光ら三名には、故意・過失はなく、右三名の行為と原告の受傷との間には因果関係もない。したがって、被告善光ら三名には共同不法行為者としての責任はない。

(五) 請求原因2(二)(1)の事実は認める。

(六) 請求原因2(二)(2)のうち、被告善光らが本件事故当時中学三年生であったことは認め、その余は否認する。

本件事故は義務教育である中学校において発生したものである。また、昼休み時間中の事故であるが、昼休み時間中といえども、全生徒は校内にとどまることが義務付けられている。更に、被告善光らが本件野球ゲームに使用したのは、教室中に放置されていた、破損した椅子の鉄パイプである。このように、本件事故は学校の管理下で発生したのであるから、このような状況のもとで発生した本件事故につき、親権者において未成年者が他に損害を加えることを予見しまたは予見し得る状態にあるとはいえない。したがって、被告利司らには監督上の義務違背はなく、民法七〇九条の責任はない。

仮に、被告利司らに一般的な監督義務違反があっても、そのことと原告の本件受傷との間に相当因果関係はない。

(七) 請求原因2(二)(3)は争う。

学校内における生徒の生活関係、教育活動のすべてについては、校長や教職員に監督義務があり、本件の場合には民法七一四条二項により、校長、教職員に生徒を親権者等の法定監督義務者に代わって監督すべき義務があったものであり、被告利司らにはその義務がなかった。

(八) 請求原因3(一)のうち、四〇万四〇〇〇円を被告らが支払ったことは認めるが、その余の事実は知らない。

(九) 請求原因3(二)の事実は知らない。

(一〇) 請求原因3(三)ないし(五)は争う。

2  被告市川市

(一) 請求原因1(一)の事実は認める。

(二) 請求原因1(二)のうち、本件鉄パイプが教室に放置してあったこと、原告が本件ベランダ入口の敷居の上でしゃがみこんだところ受傷したことは否認し、その余の事実は認める。なお本件鉄パイプは椅子から脱落したものである。

(三) 請求原因1(三)のうち、原告が治療を受けた期間は知らない。その余の事実は認める。

(四) 請求原因2(三)(1)のうち、被告市川市が八中の設置者であることは認め、その余の事実は否認する。

八中の校長及び教員は、千葉県教育委員会で任命された千葉県費負担の教員であるから、市の公務員ではない。

また、八中においては、先生の付添なしに屋上に出ることの禁止などを定めた生徒心得を記載した生徒手帳を学年始めに各生徒に交付し、そのうえ、朝礼、学級活動等においても、口頭をもって右生徒心得の趣旨を周知徹底せしめていたものであるから、これらにより、十分安全配慮義務を尽くたものというべきである。中学三年生ともなれば事理弁識の能力を有するものであるから、幼児の場合のように常に身辺に付き添って、生徒の一挙手一投足に至るまで監督する必要はない。更に、八中では生徒の安全確保のため、休み時間中担任教諭が校舎を巡回していたが、本件事故が発生したのは教諭の訴外滑川信子が本件ベランダ南側の廊下を巡回した後のことであって、巡回したときは、本件ベランダには誰もいなかったのである。一方、生徒指導、教務、庶務の各主任及び教頭若しくは校長が毎日校舎を点検しているが、本件事故発生の前日まで本件鉄パイプを発見しておらず、また、本件事故当日第二音楽室で授業をしていた教員もこれを発見していない。

本件ベランダの入口は、通風、採光、その他健康上の理由及び災害時における生徒の避難のため適宜開閉されなければならないものであるから、これは常に施錠しておくべきものではない。また、本件事故と本件ベランダが狭いということの間には因果関係はない。

前記のとおり、本件ベランダへの立入りは禁止されており、このことは生徒全員が熟知していたものであり、本件事故は、原告や被告善光らの教師の指導を無視した行為により突発的偶然的に生じたものである。八中の校長、教員らは、原告、二郎及び被告善光らがかかる場所において本件事故を生ぜしめようとは全く予見し又は予見しえなかったものである。

仮に、八中において何らかの安全配慮義務違反はあったとしても、この義務違反行為と本件事故との間には、二郎及び被告善光らの作為並びに原告の過失による不作為が存在するから、八中の義務違反行為と本件事故との間には相当因果関係はないものといわなければならない。

(五) 請求原因2(三)(2)は争う。

(六) 請求原因3(一)のうち、四〇万四〇〇〇円が原告に支払われたことは認めるが、その余の事実は知らない。

(七) 請求原因3(二)の事実は知らない。

(八) 請求原因3(三)ないし(五)は争う。

三  抗弁

1  被告善光ら及び被告利司ら

(一) 責任無能力

被告善光らは、本件事故の結果について法律上の不法行為責任を弁識するに足りる能力を備えていなかったから、被告善光らには責任能力がなかった。

(二) 監督義務の遂行

被告利司らは被告善光らに対し、いずれも保護者としてなすべき監督義務を尽くしたものであり、この点に過怠はなかった。

(三) 消滅時効

原告が本訴において逸失利益の請求をしたのは昭和六二年六月一五日であるが、原告の逸失利益の請求権は、本件事故の発生から三年が経過した昭和六〇年九月三〇日、時効により消滅した。被告善光ら及び被告利司らは本訴において右消滅時効を援用する。

(四) 過失相殺

原告は、四階の教室から体育館へ直行せずに、わざわざ三階に立寄り、被告伊藤善光から危険だから立退くように再三求められたのに、これに応じないで、本件ベランダ内にいたのであるから、本件事故の発生については原告にも過失があった。

更に、原告あるいは原告側は訴外日本学校健康会(以下「学校健康会」という)に対し医療費の請求手続きをなさず、かつ健康保険による治療をしなかったため、著しく損害額を拡大させた過失がある。

したがって、過失相殺による損害額の減額をすべきである。

(五) 障害見舞金の受領

原告は、学校健康会千葉県支部から昭和六〇年二月一日、障害見舞金九〇万円の支払を受けたから、右金額は原告の損害額から控除されるべきである。

2  被告市川市

(一) 過失相殺

原告は、被告善光らから退去を求められたにもかかわらず、二郎が振り回していた本件鉄パイプに危険を感じず、本件ベランダ内の出入口そば腰壁兼水切壁の本件ベランダ側二〇センチメートルの部分に腰掛け、その場所から移動しなかった過失があるから、過失相殺による損害額の減額をすべきである。

(二) 障害見舞金の受領

被告善光ら及び被告利司らの抗弁(五)と同じ。

四  抗弁に対する認否

被告らの抗弁中、原告が学校健康会千葉県支部から障害見舞金九〇万円の支給を受けたことは認めるが、その余は全部争う。

学校健康会給付金の制度は共済目的を有し、かつ、掛金保護者負担の制度であるから、かかる制度の目的等に照らせば、その給付金をもって原告の損害賠償請求額から控除すべきではない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一本件事故の発生

1  請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  請求原因1(二)のうち、昭和五七年九月二九日午後一時三〇分過ぎころ、本件ベランダにおいて、二郎及び被告善光らの四名が、本件鉄パイプで本件野球ゲームをしていたところ、二郎の振った本件鉄パイプが同人の手元を離れて原告に当たり原告を負傷させたことは、当事者間に争いがない。

3  前記争いのない事実と、〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができ、右証拠中、右認定に反する部分は措信しえず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(一)  二郎及び被告善光ら四名は、本件事故当時八中の三年五組の生徒であったが、本件事故当日の昼休み(午前一二時五〇分から午後一時三五分まで)に食事が終わった後、野球ゲームをしようということになった。三年五組の五時間目の授業は音楽であり、三階にある第一音楽室で行われることになっていたため、二郎らは第一音楽室の隣にある本件ベランダで野球ゲームをすることにした。

(二)  本件ベランダは、鉄筋コンクリート造二階建ないし四階建校舎の二階部分の屋上にあたり、東西二二m余、南北八m余の概ね長方形で、東側はコンクリート壁によって第一音楽室と、南側はガラス窓、ガラス引戸によって廊下と、それぞれ接し、北側と西側はフエンスが設置されているだけで開放された構造となっている。そして北側と西側は校舎から五m余を隔てて市道と接している。

(三)  ところで前示の野球ゲームというのは、投手がボールの代わりにピンポン球やテニスボール等を投げ、打者がほうき等手近にあるバット代用の物でこれを打ってベースへ走り、これを皆で交替して行うという遊びであった。

(四)  二郎らは、このような野球ゲームをするため、級の女子生徒からピンポン球を借り、また、バットの代用として使用するため、二郎が本件ベランダの南側の廊下を隔てた反対側にある第二音楽室から本件鉄パイプを持って来た。この鉄パイプは、八中で使用されている椅子の腰掛板の下にある横桟の鉄パイプが椅子から外れたもので、長さ約三二センチメートル、直径約三センチメートル、重さ約二五〇グラムの真直ぐな棒状のものであった。

(五)  二郎らが本件野球ゲームをするという話を聞き、同じく三年五組の生徒であった訴外早川有里子、同飯塚恵子、他三名位の女生徒が本件ベランダに来て、本件野球ゲームに入れてくれと言ったが、二郎らはこれを断った。その後、右三名位の女子生徒は本件ベランダから出ていったが、右早川、飯塚の二名は、打者の近くにいたところ、被告善光らのうち一人から、危いから場所を移動するように言われたため、打者の後方の、本件ベランダの東側の壁際まで下がり、座って本件野球ゲームを見ていた。

(六)  原告は当時三年一組の生徒であったが、昼休み後の最初の時間の五時間目の授業が体育であったため、四階の教室で体操服に着替え、午後一時三〇分の予鈴が鳴った後、友人とともに教室を出て一階の体育館へ向かった。その途中、四階の手洗所が故障していたことから三階の手洗所を使用するため、三階の手洗所付近まで来た時、原告とは級が異ったが親しい友人であった前記飯塚らが本件ベランダにいるのを見掛けた。

原告はその日友人から借りた体操服を着ていたが、右飯塚らに体操服の膝部分に付いていたワッペンを見せようとして、本件ベランダの入口へ行き、右入口の敷居の上に両足を乗せて中腰となり、左手で窓枠をつかんで、膝を突き出すような格好で、「これ可愛いでしょう」等と言いながら飯塚らにそれを見せた。

(七)  原告が本件ベランダの入口に来たとき、二郎及び被告善光らは既に本件野球ゲームを始めており、二郎が三人目の打者となっていた。そして、二郎がピンポン球を打とうとして本件鉄パイプを振った際、手が滑って本件鉄パイプが同人の手を離れ、廊下方向へ飛んで行き、本件ベランダ入口の横にある窓ガラスに当たると同時に、右入口の敷居の上にしゃがみ込んで、顔をやや左側に向けた格好の原告の口唇部に当たった。

(八)  右事故により、原告は骨破損、歯牙破損、顔面打撲擦過傷、口内、口唇裂創の傷害を受け、受傷の日のその翌日市川市内の吉野外科病院および久保田歯科医院に通院し、口唇部縫合等の治療を受けたが、その後同年一〇月五日から昭和五八年八月三日まで東京都港区内のホシ歯科に通院して治療を受けた。そしてその結果、原告は上顎四本、下顎四本の歯を抜歯し、その部分に義歯を装着せざるを得なくなった。

二被告らの責任

1  被告善光らの責任

(一)  前示のような本件ベランダの位置、広さ、周囲の状況と、本件野球ゲームの遊び方、殊にバットの代用として使用した本件鉄パイプの材質およびそれは滑り止めもない棒状の形状であったことなどに照らすと、屋上の狭い場合である本件ベランダで、バットの代わりに右のような本件鉄パイプを振り回すなどすれば、滑ってこれが手元を離れて飛んで行く可能性も充分にあり、もしそうなれば、ベランダ内はもとより、ベランダを超え、ガラス窓などを損壊して廊下にまで入り、あるいはフエンスを超えて下に落下するなどして、このような場所にいた人の身体等を害する危険性が高いことは容易に予想しうる状況にあったものと認めることができるから、被告善光らは本件ベランダにおいてはこのような危険のある本件野球ゲームは差し控えるべき注意義務があったものというべきである。

(二)  しかるに、被告善光らは右の注意義務に違反し、共同して本件野球ゲームを行い、その結果、二郎が打者として本件鉄パイプを振った際、これが滑って飛んで行き、原告に当って受傷させたのであるから、被告善光らは民法七〇九条、七一九条に基ずき、二郎とともに、共同不法行為者として、連帯して、原告が被った後記損害を賠償すべき義務がある。

2  被告利司らの責任

(一)  請求原因2(二)(1)の事実については、当事者間に争いがない。

(二)  ところで、親権者の未成年者に対する監督義務は、未成年者の生活万般に関するものであるから、未成年者が就学者である場合には、学校内の生活についても、当然これが及ぶのである。もっとも学校内の生活については教員も監督義務を負う場合がありうるけれども、その場合においても親権者の監督義務がなくなる訳のものではない。

そして、学校における指導監督はその性質上、集団的、概括的な指導監督にならざるを得ず、各個人の能力、性格、具体的な生活、行動等に応じた肌理細く行届いた指導監督は期待し得ないから、親権者は、このような点に留意して、親権者の目の届きにくい学校生活に関しても、日頃から関心を持って子の生活態度や行動の把握に努め、他人に危害を及ぼすような危険な遊びや行動をしないように、子の年令、能力、性格、等に応じ、具体的、適切な指導監督をなすべき義務があるものといわねばならない。

(三)  これを本件についてみると、被告加藤正義、同伊藤のぶ及び同矢島榮子各本人尋問の結果によると、被告善光らはしばしば野球をして遊んでいたことが認められ、また後記認定のとおり、八中の生徒の間において本件ベランダなどにおいて野球類似のゲームがしばしば行われていたところ、被告善光らは当時中学三年生で、その年令からして軽率な行為に出ることも予想されたから、被告善光らの親権者としては、学校のように他の生徒が多数集まっている場所で野球又はそれに類似した遊びをするときには、危険のないような場所と方法で行い、もし危険がある場合にはそのような行為をしないよう指導監督すべき義務があったというべきである。

しかるに、右証拠によると、被告伊藤利司、同伊藤のぶは、その子である被告善光に対し、「他人に迷惑をかけないように」などと、被告矢島久雄、同矢島榮子は、その子である被告久德に対し、「野球は広場へ行って危なくない所でやるように」、「学校では他の生徒に迷惑をかけないように」などと、被告加藤正義、同加藤まつ子は、その子である被告智久に対し、「他人に迷惑をかけないように」などと、それぞれ口頭で注意していたことは認められるものの、被告善光らが野球類似のゲームをしていたことなど学校内の生活について、十分な行動の把握もまた具体的かつ適切な注意や指導もしていなかったことが認められる。

したがって、被告伊藤利司、同伊藤のぶは被告善光に対する、被告矢島久雄、同矢島榮子は被告久德に対する、被告加藤正義、同加藤まつ子は被告智久に対する、それぞれ指導監督を怠った過失があったものというべきである。そして、右の過失と本件事故との間には相当因果関係があると認められるから、被告利司らは、民法七〇九条により、原告が被った後記損害を賠償する義務がある。

3  被告市川市の責任

(一)  〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 八中の校舎は二階建の部分、三階建の部分と四階建の部分とがあり、本件ベランダは二階建の部分の屋上にあたる。

(2) 八中では、毎年新学期になると生徒各自に生徒手帳を渡しており、これには生徒心得として、「先生の付添いのない場合は屋上にでない。」という定めがあった。そして、学校朝会や生徒朝会、学級指導などでこの生徒手帳に記載された生徒心得について指導したり、屋上やベランダに出てはいけないと指導したりしたことはあったが、教員らも生徒らも、本件ベランダが出ることを禁止されている屋上に当たるものであるかどうか明確に理解していなかった。

(3) 本件ベランダと廊下との間には引違い窓と引違い戸があり、それには簡易なクレセント錠が付けられていたが、これらの戸は換気、通風、採光及び防災上の理由などから、夏季は開放されていることが多く、生徒達は、しばしば本件ベランダへ出て、ピンポン球やテニスボール、紙を丸めたものなどをほうきなどバット代用の物で打って遊ぶ野球類似のゲームや風船をボール代わりに使用するバレーボール類似の遊びなどをしたり、話をしたりしていたが、教員等からこれを注意されたことはほとんどなかった。

(4) 八中では、教員が校舎内を巡視したり、教頭等が校舎内を点検したりしていたが、それにもかかわらず、本件事故以前から、三年生の教室や美術室、音楽室、家庭科室などに、机や椅子から壊れて外れた鉄パイプが放置されたままになっていることが時々あった。これらは、教員の指示により片付けられることもあったが、そのような指示もなく教室内に放置されていたものもあり、生徒がこれを遊び道具として使用したり、前示の野球ゲームのバット代わりに使用したりしたこともあった。

(5) 本件鉄パイプは第二音楽室の後ろ側に放置されているのを二郎がたまたま見つけて持って来たものであるが、その日の午前中に第二音楽室で授業を行った教員らは、同室に本件鉄パイプが放置されていることに、誰も気づかなかった。

(6) また本件事故前の午後一時二〇分ころ、教員の訴外滑川信子が本件ベランダと第二音楽室の間の廊下を通って校内巡回をしたが、その時には右滑川は本件ベランダで本件野球ゲームが行われていることに気づかなかった。

以上のように認められ、〈証拠〉、右認定に反する部分は信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) ところで、中学校の校長、教員らは、学校生活において生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務があるものというべきである。

本件の場合、前記認定の事実関係に照らすと、教室内には本件事故以前から時々本件鉄パイプと同様の鉄パイプが放置されていたことがあったのであり、また、生徒の間では本件ベランダにおいて、ほうき等バット代用の物を用いた野球類似のゲームがよく行われていたのであるから、八中の校長、教員らにおいては、生徒らの年令に照らし、生徒らがこのような鉄パイプを使って野球類似のゲームをするということは十分予測することができたことであり、またそのようなことが行われれば、鉄パイプの材質等からして、他の生徒らの身体等に対する危険が生ずることも容易に予測しえたものということができるから、校長及び教員らは破損した机や椅子、鉄パイプ等が教室内に放置されていることのないように校内の巡視や点検を厳にし、もしそのような物を発見したときは直ちにこれを撤去する等適正な措置をとるように努めるとともに、日頃から生徒らが、このような危険な物を使用して他の生徒らの身体等に危険を及ぼすおそれのある遊びや行動を行わないように指導、監督すべき注意義務があったものというべきである。そして殊にこのような遊びや行動は休み時間中や放課後等に行われ易いことが明らかであるから、そのような時間帯においては、間断なく巡視を行うなど一層監視を厳にし、もしそのようなことが行われているのを発見したときは、直ちにこれを中止させるなど事故の発生を未然に防止するような万全の措置をとるべき義務があったものといわなければならない。

しかるに、八中の校長、教員らは、第二音楽室に本件鉄パイプが放置されていたのに気づかず、従ってこれを撤去する措置もとらず、また本件事故当日の昼休み時間内に一回巡視はしたものの、二郎らが本件ベランダにおいて本件野球ゲームを行っていたことに気づかず、これを中止させる措置もとらなかったのであるから、これらの点において前示の注意義務を懈怠した過失があったものといわざるをえない。

そして、その結果本件事故が発生したのであるから、右の過失と本件事故との間に相当因果関係があることは明らかである。

なお、被告市川市は、八中において教員の付添なしに本件ベランダへ出ることを禁止し、その趣旨は生徒手帳、朝礼等によって周知徹底されていたというけれども、右のような措置をとったとしても、これをもって生徒の安全を保護べき義務を尽くしたとはいえない。

(三) 被告市川市が八中の設置者であることについては、原告と被告市川市間において争いがなく、そうすると八中における教育事務は被告市川市の事務に属するものである(学校教育法五条、四〇条、二九条、三一条参照)ところ、八中の校長、教員らはその職務を行うについて前示のような過失があったのであるから、被告市川市は国家賠償法一条により、原告が本件事故によって被った損害を賠償すべき義務がある。

なお、被告市川市は、八中の校長及び教員は、千葉県教育委員会で任命された千葉県費負担の教員であるから、市の公務員ではないというけれども、八中の校長及び教員が、千葉県教育委員会で任命され、その給与を千葉県が負担する職員であったとしても、これらの職員が、被告市川市の事務である八中における教育事務を行う職員であることには変りがなく(地方教育行政の組織及び運営に関する法律三七条以下参照)、ただこの場合にはその職員の給与を負担する千葉県もまた国家賠償法一条に基づく損害賠償責任を負うことになる(同法三条一項)だけであるから、被告市川市の責任に消長を来すものではない。

三損害

1  治療費 一三六万五〇〇〇円

〈証拠〉によると、原告はホシ歯科における治療費として、被告らから支払いを受けた四〇万四〇〇〇円のほかに、一三六万五〇〇〇円を要したことが認められる。

2  通院交通費   三万九二〇〇円

〈証拠〉によると、原告はホシ歯科に電車を利用して二八回通院したこと、そのうち七回は、負傷した顔を公衆の目にさらすのを避け、また治療の疲れなどからグリーン車を利用し、原告の母文江がこれに付き添って行ったこと、普通車を利用した場合の一人分の往復運賃は四八〇円であり、グリーン車を利用した場合の一人分の往復運賃は二〇八〇円であったことが認められる。原告の年齢、受傷の部位、程度等を考えると、母親が通院に付き添ったことはやむを得ないところであり、したがって、右請求は相当な損害と認められる。

3  逸失利益 三六二万三九七二円前記認定のように、原告は本件事故により八本の歯を失ったところ、〈証拠〉によると、原告は高校卒業後二年制の東京工学院芸術専門学校に進学したが、これを卒業すると短大卒の資格を取得することができることが認められる。右事実に、歯牙欠損は他の身体的機能の喪失、障害に比して労働能力に及ぼす影響の程度が比較的少いと考えられることを考慮すると、右の後遺障害による原告の労働能力の喪失率は一〇%と認めるのが相当である。

そして、昭和六〇年賃金センサスによれば、短大卒女子の全年齢平均年間収入は二五七万二二〇〇円である(第一巻第一表)ところ、原告は二〇歳から六七歳まで就労可能であると認められるから、この間の労働能力喪失による逸失利益の本件事故時における現価をライプニッツ式計算方式により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると三六二万三九七二円(円未満切り捨て)となる。

257万2200円×(18.418−4.329)×0.1=362万3972円

4  慰謝料 二〇〇万円

前記認定のように、本件事故により原告は上顎四本、下顎四本の歯を失い、義歯をつけざるを得なくなったのであるが、〈証拠〉によると、原告は現在に至るも未だ歯の痛みがあり、硬いものが食べられない状態であることが認められ、このような事実に、前示の本件受傷による原告の治療経過、年令その他一切の事情を考慮すると原告の慰謝料としては、二〇〇万円が相当と認められる。

5  弁護士費用 六〇万円

原告が本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の性質、審理経過、認容額等に照らせば、原告が本件事故による損害として被告らに請求しうる弁護士費用は六〇万円が相当と認められる。

四抗弁について

1  責任無能力の主張について

被告善光ら及び被告利司らは、被告善光らは本件事故当時責任能力がなかったと主張するが、前示の事実から明らかなとおり、本件事故当時、被告善光、同久德はともに一五才三月、同智久は一四才七月で、いずれも中学校三年生であり、心神に異常があったとは認められないこと、二郎及び被告善光らは本件野球ゲームの危険性を認識して、前示の早川有里子らに場所を移動するように注意したこと等からして、被告善光らはいずれも是非善悪を弁識しそれに従って行動する能力を有していたと認められるから、右主張は採用しえない。

2  時効の主張について

被告善光ら及び被告利司らは逸失利益の請求権は時効により消滅したと主張するが、逸失利益の請求は本件事故による損害賠償請求のなかの一つの内訳、算定根拠にすぎず、独立の権利ではないと解されるから、右主張は失当である。

3  過失相殺の主張について

被告らは、原告及び原告側には、本件事故の発生及び損害額を拡大させたことにつき過失があるので、過失相殺による損害額の減額をすべきである旨主張するので、この点について検討する。

まず、前記認定事実、〈証拠〉を総合すると、原告が本件ベランダの入口へ来たのは、二郎及び被告善光らが前記早川らに対し、危ないから場所を移動するようにと言った後のことであり、原告に対してそのような注意を行った事実は認められない。

また、前記認定のように、本件事故が発生したときに原告がいた場所は本件ベランダの入口であり、原告がそれ以上ベランダの中に入っていたとは認められない。

したがって、これらの点において原告に過失があったということはできない。

また、原告が三階へ立寄ったことをもって本件事故の発生について過失があったということもできない。

他に本件事故の発生につき原告に過失があったと認めるに足りる主張、立証はない。

なお、〈証拠〉によると、ホシ歯科では保険診療を行っていなかったこと、本件事故につき学校健康会から原告に対し医療費の支払いはなされていないことが認められるが、これらの事由は損害額を拡大させた事由に該らないから、右主張は失当である。

4  障害見舞金の控除の主張について

学校健康会千葉県支部から原告側に対し障害見舞金九〇万円が支払われたことは、当事者間に争いがない。そして、日本学校健康会法四二条二項によると、右健康会が障害見舞金を給付したときは、その価額の限度において、被害生徒が加害者に対して有する損害賠償請求権を取得するとされているから、右九〇万円は原告の本訴請求額から控除すべきである。

五結論

以上の次第で、原告の被告らに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、三の損害額から四の4の支払を受けた金額を控除した六七二万八一七二円及び内金六一二万八一七二円に対する本件事故の日である昭和五七年九月二九日から支払い済みまで民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行及びその免脱の各宣言につき同法一九六条一項、三項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官村田長生 裁判官池本壽美子、同八木貴美子は、いずれも転任により署名捺印することができない。 裁判長裁判官村田長生)

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